。それからはもう、お化が出ることもなくなりました。
 ――それだけのお話です。このお話を、私は一番はっきり覚えています。なぜだか自分にも分りませんが、昨日聞いたもののように鮮かな感銘が残っています。
 恐らくは、そのお話としっくり感じの合うような私たちの屋敷だったからでもありましょう。
 三千坪ほどの土地でした。北の隅に、根本が十抱えほどもある大きな楠が聳えていまして、その傍に榎や椋や椿の古本が並んで、それらのからみ合った根が小高い塚を拵えていて、石の稲荷《いなり》堂が祭ってありました。楠の枝葉の茂みの下に家がありました。深い井戸には、楠の白根が出ていました。
 家の前に、塀をめぐらした内庭、それから外庭。外庭の先は下り坂で、遠くの山まで見渡せました。坂の両側の傾斜面は、深い竹林で、その中に、清冽な清水のわき出る大きな池があって、黒や赤の鯉が泳いでいました。竹林の片隅に、先祖代々の墓地がありました。墓地のまわりには大きな杉が立並んでいました。そのほかいろんな大木が四方にありました。
 こうした古い家敷には、何かしら、一面に菌でも生えそうな感じがありました。どこかの隅には、お化が出る気味
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