いてみたいんだけれど、どう云って聞いたらいいかしら……。」
「およしなさいよ。ひょっとすると、あたしたちが姉弟かも知れないんだもの。」
「うん、そうかも知れない。」
そして私たちは眼を見合って、ずるそうに微笑みあうのでした。もし私たちが姉弟だったら、そんなこと、祖母に聞いては猶更悪いような気がしました。
私の父とみよ子の父とが一緒に町へ出かけますと、私たちは同じようにおみやげを買ってきて貰いました。硝子玉やメンコやお手玉やコマや絵本など。それをみよ子は私の家に持って来、私のと一緒にして箱にしまっておき、二人で共同に使いました。遊びには男と女との区別がありませんでした。一緒にお手玉をしたりコマを廻したりしました。祖母は私たちにお手玉の面白い歌を教えてくれました。御殿で歌われたのだそうでした。御殿というのは、旧藩主の小さな分家で、祖母は若い時、奥女中としてそこにあがっていたことがありましたのです。
御殿の話を祖母はめったにしてくれませんでしたが、時には面白いことをきかしてくれました。狸のいたずらが何度も話の中に出て来ました。
狸は人をばかす代りに、人からもだまされるそうでした。人の声や足音をよくまねました。そして月のいい晩には、木の上に登って腹皷をうっています。そこへふいに、大きな声で何か云うと、云われた通りになるのです。狸が死んだと叫ぶと、死んだまねをするし、木から落ちたと叫ぶと、本当に落ちてしまうそうです。
私はみよ子と、よく狸ごっこをして遊びました。
住宅のすぐ横手に、土蔵が一つありました。旧藩時代には煙硝蔵だったのを、譲り受けて家にもって来たものだとのことでした。その入口の重い扉が開かれているような時、私はみよ子を誘って、その中で狸ごっこをしました。どんな風の日でも、その土蔵の中はしいんとしていて、高い小さな窓からさす明るみが朧ろで、ほんとに狸になったような気がするのでした。
二階には畳が敷いてあって、いろんな器物の箱が並んでいました。祖母はそこで器物の手入れなんかをしてることが度々ありました。
梨の白い花が散りかけた頃のことです。祖母が土蔵の二階に上って、いつまでも出て来ませんでした。私は何だか気になりました。というのは、その前日、見知らない男が二人やって来て、大きな鎧櫃一つと、刀を数本と、掛軸を幾つか、車につんで持っていったのでした。家の中が
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