ってから云った。
「もう何ともありません。」
 頭の中がはっきりしてきた。余りはっきりしたので、それが一寸変だった。も一度左足の踵で廻った。
 俊子がはらはらと涙を落した。
 彼はふーっと息をした。頭の中がしっかりしているのを感じた。
 静かだった。虫の声が雨のように繁く聞えてきた。外には月が冴えていそうな夜だった。



底本:「豊島与志雄著作集 第一巻(小説1[#「1」はローマ数字、1−13−21])」未来社
   1967(昭和42)年6月20日第1刷発行
初出:「新小説」
   1921(大正10)年11月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:松永正敏
2008年10月19日作成
2008年10月23日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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