月評をして
豊島与志雄
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(例)※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]急
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月評をして、あらゆる情実より脱せしめよ。
情実は、真実を蔽い隠す最も危険なる霧である。この霧を通して眺むる時、物の輪廓はぼやけ、物の色彩は輝きを失う。そして其処には怪しい畸形な幻がつっ立ってくる。
情実に囚われた批評が文壇にも如何に多いかは、私が茲に喋々するにも及ぶまい。勿論吾々は、全く面識のない人の作品に接する時と、親しい友人の作品に接する時とは、その間の気分に多少の差異がある。然しその気分に評価の眼を乱されまいと努むるのは、批評家の最も公正な態度であろう。友愛の情と批判の知とは別物である。後者が前者の機嫌を取る時には、もはや其処には阿諛[#「諛」は底本では「言+嫂のつくり」]しか存しない。後者が厳正であればあるほど、前者は益々純真な光りを放ってくる。そして作者その人に対する理解は、作品に対する理解を益々深からしむること
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