にのみ益立つであろう。
情実批評の例として、対人関係から来る阿諛[#「諛」は底本では「言+嫂のつくり」]的批評や反感的批評、評家が創作家でもある場合に於ける自己標準の退嬰的批評や他日を予想する下心的批評、それらの卑屈なものを私は茲に持ち出すまい。私が一例として持出したいのは、創作当時に於ける作者の状態を勘定に入れた批評である。多忙中に無理に書いた作品、病中に強いて書いた作品、原稿料のために余儀なく書いた作品、そういう作品を批評する場合に、作者の多忙や病気や貧窮や其他を勘定に入れて、誤れる安価な同情を押売するのは、却って作者を毒し文壇を害するものである。
一度作品を公に発表する以上、その作品が如何に※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]急の間に不満足に生み出されたものであろうとも、それが一個独立した作品として無条件に蒙るべき正当な批判を、そのまま受け容れるだけの覚悟は作者の方に在る筈である。創作当時の不利な情状をいつまでも作品にくっつけて、その情状の酌量を批評家に要求するほどのずるさは、作者の方にない筈である。情状酌量は、ただ作者自身の胸の中にしまっておくがよい、そして公正な批判
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