いけない、ただ現在をのみ目標としなければいけない。云い換えれば、各作家については、その過去の作品を念頭にし或は未来の期待を念頭にしてはいけない。文壇全体については、主義傾向の変易に亘ってはいけない。即ち何処までも現在の状態の記述批判でなければならない。其処に月評の真の使命が存する。
月評家の陥る最も大なる誤謬は、各作品の間に或るハンディキャップを付して評価することである。既に名を成した作家の作品と、未だ名を成さない作家の作品とを、同一標準で律しないことである。この誤謬は現在にのみ立脚しないことから来る、過去を酌量することから来る。作品と作者とを一つにして見る他の種類の批評の分野、それを侵さんとすることから来る。
所謂大家と称せられる作家の作品にとっては、そういう名称の下に余りに苛酷に取扱われることは、それだけの損害でなければならない。所謂新進作家と称せられる作家の作品にとっては、そういう名称の下に余りに寛大に取扱われることは、それだけの侮辱でなければならない。右と反対の取扱方は、その作品にとっては、阿諛[#「諛」は底本では「言+嫂のつくり」]であり或は虐待でなければならない。そして
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