出したが、彼の様子を見て喫驚した。彼は如何にも真剣らしく、上目がちにじっと私の顔を覗き込んできた。貝殼のような眼の光が、変に底暗く黝ずんで、白々とした額とぼーっと酒気のさしてる頬とに、変に不気味な対照をなして、私の方を窺ってるのだった。何故に彼がそう真剣になってるのか、私は更に見当がつかなくて、少し慴え気味にもなって、冗談にまぎらそうとした。
「君は何を出すんです。」
 彼はそれに答えないで、私の方を一心に見つめていた。その時私は、ジャンケンの勝負は全く気合一つだ、とそんなことを彼の気込みから思い浮べた。が、やはり真剣にはなれなかった。掛け声をしながら、拳を振り上げざま、カミを出すぞといわんばかりに指を開きかけて、そのままカミを出すと、彼は二本の指をぱっと開いて勝った。
 その瞬間に、彼はにやりとしてほっと吐息をしたが、何故か眼を伏せて黙り込んでしまった。
「駄目よ、今のは八百長だから。」
 お光が不意にそんなことを云った。それが何かしら私の気持を害した。
「じゃあも一度やり直して見よう。君、も一度やって、八百長でないところを見せてやろうじゃありませんか。」
「やりましょう。」
 そし
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