い出した。
「唄はいけませんよ、もう……。」
一番年上のが止めようとするのを、私は無理に制して、彼に歌わせた。彼は追分を一つ歌った。喫驚するほどいい声だった。皆感心して黙り込んでしまった。彼は歌い終って、またきょとんとした表情で、にこにこ笑いながら、だだ白いがらんとした室の中を見廻していたが、突然真面目な顔付になって云った。
「君達四人でジャンケンをしてごらん。」
「そしてどうするの。」
「勝った者に歌をうたわせようと云うのよ、屹度。」
「いやなことだわ。」
「いや、何でもないんだから、」と彼は云った、「とにかくジャンケンをしてごらん。」
「何でもないんなら、したってしなくったって同じじゃありませんか。」
「だからしてごらんよ。頼むから……一度だけでいい。」
彼女達はくすくす笑いながら、ジャンケンをした。三人共気乗りがしないらしく、握ったままの拳をつき出したが、お光一人はぱっと大きく手を開いた。
「あら。」
しまったという顔付で、彼女は彼の顔を見上げたが、彼は何とも云わないで、私の方へ向き直った。
「こんどは私とあなたとしましょう。」
「そうですか。」
そして私は何気なく拳を差
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