て私達はまたジャンケンをしなおした。彼は何だか気抜けがしたようにぼんやりしていた。それに反して、私は妙に真剣になりだしてくるのを感じた。所が勝負にはまた負けた。も一度挑んだ。此度は勝った。そうなるとどちらが勝ちか分らなくなって、何度も何度もやり直した。勝ったり負けたりしてはてしがなかった。そのくせ妙に気乗りがしてきて、はっきり勝負をつけないでは止められなくなった。彼もまた次第に興奮してきた。
「もうお止しなさいよ、馬鹿馬鹿しい。」
 一番年上の女にそう云われると、なおそれに反抗してみたくなった。
「一体何のためのジャンケンなの。」
 返事につまって、黙って彼の顔を見ると、彼は額に少し汗をにじませながら、やはり黙って私の顔を見返した。
 変な白けきった沈黙が続いた。私はやけ[#「やけ」に傍点]に杯を取上げて、立続けに飲んだ。
「君が先にジャンケンを持ち出したんでしょう。」
「ええ。」と彼はもうきょとんとした顔付で答えた。「実は一寸占ってみたんです。」
「占いですって、何の……。」
 彼は先程の勝負のことなんか忘れてしまったかのように、にこにこ笑い出しながら云った。
「この人達の中で、ひょ
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