とは違うと言うんですか。だけど結局は、やはり同じじゃありませんか。」
「いいえ、違ってよ。」
「じゃあどう違うんでしょう。」
「どうって……それは、行ってみなければ……。」
「そうです。行ってみなければ分らない。ただそれだけの違いです。」
「でも、行ってみたら……。」
「それは案外違ってるかも知れません、また違っていないかも知れません。そして、その分らないところに非常な魅力がある。ただそれだけのことです。」
「………」
「また黙りこんでしまいましたね。それじゃ打明けて云いましょうか。わたしも、そういう魅力に惹かされたことがあるんです。」
「え、あなたが……。」
「そうです。あなたがこちらへ来てから、暫く手紙が来なかったことがありましょう。あの当時です。何もかも嫌になって、淋しくなって、不安になって、そして……あなたのことばかり考え通していました。」
「それから。」
「或る晩、夜更けに、短刀を取出して、その刄先にじっと見入ったことがありました。」
「あら、ほんとう……。そんなことちっとも……。」
「手紙には書けなかったんです。……万一のことがあったらなんて、そんなことを手紙に書くものじゃ
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