、真夏の日の光が、あたり一面に、そして眼の届く限り一面に、じりじり照りつけていた。淋しい蝉の声が、木立の中に封じこまれていた。乾燥しきった微風が、ゆるく流れていった。
「あああれですね。」
「ええ。」
「いつもあんなですか。」
「晴れた日は大抵光っていますの。そして夜になると、篝火が見えるんですって。」
「漁船の……。」
「ええ。」
「全く妙な景色だ……。」
「どうして。」
「草藪ばかりの、上に七八本の木立があるきりの、平凡な丘と、ただ平らな畑の眺めと、それだけじゃありませんか。それが先の方へいって、地平線のところに、帯のような海がきらきら光ってる……。」
「だからあたし、一飛びにあすこまで飛んでいきたいと、いつもそう思うんですの。」
「だって、時々海へはいりに出かけるんでしょう。」
「………」
「怒ったんですか。」
「………」
「御免なさい。何も……そんなつもりで云ったんじゃないんです。」
「だって、あんまりですもの。」
「然しわたしはそう思うんですよ。ここから見ると、海はあんなに光ってるが、側へ行ってみると、やはりただの平凡な海に過ぎない……。」
「海はそうですけれど……。」
「海
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