」に傍点]とつき出た背骨を中心に、肉とも布ともつかないものが渦のようによれ捩れて、真赤な血に染んでいた。火夫はそれを無雑作に線路の横の草地に放り出した。
反対の側の窓から覗いてみると、ずっと後部の方に、真黒なものが転っていた。髪を乱した女の頭だった。南瓜のようにごろりと投り出されていた。他には何にも見えなかった。
車掌と火夫とは機関車の方へ戻っていって、列車に乗りこんだ。汽笛が一つ鳴った。汽車は進行しだした。乗客は陰鬱な顔で黙りこんでいた。向うの小川の土手に、六七人の農夫が佇んで、じっとこちらを眺めていた。雨は止んで、かすかな風が稲田の面を吹いていた。
それから、二つ三つ停車場を通り過ぎるうちに、曇り日の淡い日の光が、次第に強くなってきて、やがてぎらぎらした直射になった。小雨の後の強烈な光線だった。車室の外は、眼がくらむほどの真昼だった。
頭の中に刻まれてる轢死人の死体が、そのぎらぎらした日の光の中に浮出してきた。捩切られた腰部の真赤な切口、真白な完全な円っこい両脚、白足袋をはいた綺麗な足先、それから、ごろりと転ってる髪を乱した頭、それらが宛も宙に浮いてるかのように、まざまざに
前へ
次へ
全24ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング