見えてきた。余りに明るい日の光だった。死体の断片を包みこんで、ただ一面に光り輝いていた。

「わたしは、暗いところでばかり……薄暗がりの中でばかり、物を考える癖がついていた。それで、死人と云えばみな、曇った日か雨のしょぼ降る日か……陰欝な空気の中にしか考えられなかったのですが、実は……。」
「日射病で倒れる兵隊と同じだと仰言るんでしょう。」
「ええ、そうです。……あなたは死人を見たことがありますか。」
「いいえ。」
「一度も。」
「ええ。」
「それじゃ私の話がよく分らないでしょう。」
「………」
「あなたは笑っていますね。」
「いいえ。」
「だって……。」
「あたし、変なことを思い出して……。」
「どんなことです。」
「あなたから、来るって手紙が参った晩でした。あたし嬉しいのか悲しいのか分らなくなって、じっとしておられなくなって、何でも手当次第に物を投り出したいような……変な気持になってしまったの。見ると、電燈のまわりに、沢山虫が飛んできてるでしょう。それをあたし、電燈の笠の中に……深い笠ですのよ……その中に紙で封じこめてやったの。甲虫《こがねむし》や小さな蛾や羽の長い蚊なんかでしたが
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