い皮膚が張りきっていた。胴体は鮪《まぐろ》か※[#「魚+豕」、435−下−13]《いるか》のように、蓆の下から円っこくふくれ上っていた。
晴れやかな日の光に、蓆からぽっぽっと湯気が立っていた。何で濡れ蓆を被せたのか不思議だったが、その時それが、丁度大きな魚にでも被せたように、如何にも調和して落付いていた。
一人二人ずつ人立がふえてゆくきりで、誰もどうしようという考えもないらしく、無関心なぼんやりした眼付で、黙ってうち眺めていた。すぐ側には、軽やかな波がさーっさっと、砂浜に寄せては返していた。そして初秋の澄みきった日の光が、あたり一面を包み込んでいた。青々とした高い空だった。朝凪ぎの静かな大気だった。
水死人の上の濡れ蓆からは、淡い湯気がゆらゆらと立って、日の光の中に消えていた。
大学にはいって間もない頃、夏の休暇に、汽車で三時間ばかりのところへ、友人を訪れていって、翌日の午後二時すぎの汽車で帰ってきた。
車室は込んでいなかった。離れ離れに腰かけてる乗客達は、曇り日の午後の倦さに、皆黙りこんでうとうととしていた。取りとめもない杳《はる》かな想い、窓の外を飛びゆく切れ切れの景色
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