かくとすれば、舞台にのぼるかのぼらないかは問題としないで、小説と同じように読者に提供していい訳ではないだろうか。
僕は今まで、現代劇ばかりを、と云っても五つ程しか書かないが、史劇に筆をそめたことがなく現代劇ばかりを書いて来た。史劇を書きたくないことはないけれど、前云ったように、戯曲を書くには、一つのコンクリートなはっきりしたイメージが必要であるから、歴史ものに対しては、まだ中々入り得られない。詳しく云えば、作中の事件と人物と心理とは、はっきり頭にうかび得るように思われるけれど、それに第二義的なものをくっつけると、なお云えば、服装、言語、習慣、環境、などをくっつけると、どうもはっきり一つの纒ったイメージにならない。完全に昔のその時代通りのものが解れば問題はないけれど、言語や服装なんかがどうしても頭にはっきり浮んで来ない。けれどもそう云うものをすべて無視して、そうして考えれば、考えられないこともないけれど、まだそこまで、戯曲に馴れないせいかなかなか入って行けない。或はそこまで入り得られたら歴史ものを材料にした、いわゆる拡い意味の史劇を書く気になるかも知れない。
以上、僕の云ったのは
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