私がもっとも不満に感じたのは、それらの情況に対する明確な時間付がないことだった。明確な時間付さえあれば、大体の有様を捕捉出来そうだったが、それがないために、真偽とりまぜた報道がからみあって東京全市が災害の煙に包みこまれてしまうのだった。
連絡船の乗客はみな興奮の色を浮べていたが、青森からの汽車の乗客は、みな落ちついてぼんやりしてるらしかった。宇都宮あたりから汽車は著るしく速力をゆるめ、停車時間も長くなり、軒の傾いた農家が見えたりした。そして至る所物静かだった。それが、大宮になって一変した。憲兵、警官、自警団、避難民、そうした人々が駅を埋め、兵士を満載した無がい[#「がい」に傍点]の貨車が見られた。大宮からは最徐行で、街道には避難者が続き、浦和に至って汽車は停止したのである。東京についての情報は函館でよりも更にあいまい[#「あいまい」に傍点]を極めていた。近づくに随って情況があいまい[#「あいまい」に傍点]になるのは、不思議なことである。
三宅君のところで慰安を受けて翌日四日の朝、東京にはいる方法はないものかと、とにかく、駅近くの自動車屋にいって交渉してみた。そして好運をつかんだ
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