香が焚かれた。この香と御幣とは一寸対照が妙だけれど、実際は何等の矛盾な気持ちも起させなかった、ばかりでなく、却って一種の邪教めいた神秘さを伝えるものであった。そして机の一番奥に小さな厨子が据えられていた。その中には何やらぴかぴか光るものが在った。
白い木綿の着物に黒の袴をつけた巫女は、その前に長い間両手を握り合せて坐っていた。そして何やら口の中でとなえると、急に彼女の手が急速な運動を始めた。それからはもう全く狂気としか思えなかった。はてはすっくと立上ったり、また倒れるように屈んだりして、大声に何やら怒鳴り散らした。眼はつり上り、顔は筋肉の痙攣に歪んでいた。ただ狂暴で一途な精神が彼女のうちに荒狂っているとしか思えなかった。……やがて彼女はすっくと立上って一声大きく何かを叫ぶと、そのままばたりと倒れてしまった。私は彼女が死んだのではないかとさえ思った。然し祖母はただじっと手を合して拝んでいた。やがて暫くすると、巫女はふと起き上った。そして長い間厨子の方に礼拝を遂げた。それから私共の方をふり向いた。
私はその時の彼女の顔を長く忘るることは出来ないであろう。彼女の顔は真蒼であったが、それが
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