になりますのよ。」
「それでは折角御伺いしても、差引零になるわけですね。」
「ええ、だからなるべく長くいて下さらなくてはいけませんわ。今日もお泊りなすって宜ろしいんでございましょう。」
「そうですね。河野君の気持ちがよかったら……。」
「是非そうして下さいね、河野も喜ぶでしょうから。この節では、病気が少しよくなったようですから、早く元の身体になって長い物を一つ書きたいと、始終申して居りますの。いくらとめても、原稿用紙を枕頭から離さないで、何か二三行書いては考えていますのよ。でもやはり頭に力がないと見えて、その紙を破きすててはまた寝てしまいます。」
「今からそんな無理をしてはいけませんね。」
「ですけれど余り気に逆っても悪いと思いまして、私は傍についていながらどうしていいか困ってしまいますの。」
「それはお困りでしょう。私からも、暫くは静にしているように勧めてみましょうか。」
「ええどうぞ。」
「そして河野君はやはり小説でも書こうとしているのですか。」
「何だか感想みたいなものですの。書いてはすぐに破きすてますから、私にはよく分りませんけれど、つぎ合わして読めるようなものは、私そっとしま
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