中央の大石が、先手の一著で死ぬ形になっているのを見出した。然しその時、右下隅の攻め合いに彼はどうしても手をぬくことが出来なかった。どうにでもなれ! と彼は思った。そして愈々隅の攻め合いに負けてしまっても、中央の大石をそのまま放って、他の所に石を下した。中央の石になるべく触れないようにと瀬川が遠慮してるのが、はっきり[#「はっきり」は底本では「はっり」]分ってきた。その石を取られては、目もあてられない惨敗に終るのは明かだった。もしその石が活きても、彼の方に勝目はなかった。
もう終りに近づいた頃、彼はどうしても中央に石を下さなければならない手順となった。そして黙ったままその大石に一著を補って活《いき》とした。瀬川が素知らぬ風を装ってることが、ちらと動いた頬の筋肉で彼に感じられた。
彼の方が十七目負けだった。
「此度は勝負だ。」と彼は云った。
瀬川は戦争を避けよう避けようとするような石の下し方をした。彼がいくら無理な攻勢に出ていっても、瀬川は地域に多少の犠牲を払ってまで戦争を避けた。そして平凡のうちに彼の方が勝となった。
「も一番やろう。」と彼は云った。
「いやもう止《よ》そうや。また
前へ
次へ
全30ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング