らないで、だんだん悪くなって、しまいには入院なすったそうですの。何でも長崎とか云っていらしたわ。そして愈々もう手当のしようもないという時になって、其処の院長さんが、最後の試みに或る療法をされると、それですっかり直っておしまいなすったそうです。その療法というのは、馬の脊髄を取って注射するんですって。そういう説は前からあるにはあったんだそうですが、そのためにわざわざ馬一匹殺さなければならないから、実際には余り応用されたことがないとかいうお話ですわ。」
「なんだつまらない。」
「でも本当に利目が確かでしたら……。」
「僕にやったらどうかっていうんだろう。」
「ええ、余り長くお悪いようですと。」
「然し実際効能が確かなら、今迄に随分行われてなけりゃならない筈じゃないか。わざわざ馬を殺さなくても、屠殺所でそれを取ったらいいわけだからね。」
「私も変に思ったんですが、瀬川さんのお話は全く本当のことだそうですから。」
「で瀬川君は何と云っていた。」
「別に何とも仰言らないで、ただそういうことがあるといって、御自分でも半信半疑で被居るようでしたの。」
 わざわざ夢まで拵え出してそれとなく尋ねてみた「馬
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