は暫く考えてから遂に云い出してみた。
「さっき妙な夢を見たよ。」
「どんな?」
「何でもね、広い野原だ。いつまで行っても野原ばかりで、畑も丘も見えない。僕はその中を非常な速さで横ぎっていった。まるで汽車にでも乗ってるようで、とても人間の足の速さではない。その上自分の身体《からだ》はじっとしていて、ただ周囲の景色だけがずんずん後に飛んでゆくんだ。変だなと思うと、その時初めて気が付いた、僕は馬に乗っていたんだ。素敵に立派な馬でね、その馳け方の速いったらないんだ。得意になって鞭をあてていると、どうも様子が変なので、そっと下を覗いてみた。するとどうだろう、馬は僕を乗せて空中を翔《かけ》っているんだ。天馬空を翔るとはあのことだね。所がそれに気付くと同時に、僕は頭がぐらぐらとして、真逆様に地面に落ちてしまった。」
「それから?」
「落ちると同時に眼が覚めてしまった。」
「変な夢ね。」
「全く変な夢だよ。」
「おかしいわ。」
「何が?」
「実はさっき瀬川さんから馬について妙な話を聞いたのよ。」
「うむ。」
「瀬川さんのお友達のまたお友達ですって、肺結核で長く患っていらしたが、どんな手当をしてもよくな
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