り天井板を眺めながら、また時々妻と瀬川との話の音声を耳にしながら、鬱屈してくる感情の底で考えた。――瀬川こそ自分の親友だ。忙しい中を度々訪れて来てくれては、大抵一晩位は泊っていってくれる。而も肺結核という自分の病気を恐れもしないで、一緒に食事をし、一緒に寝転んで、距てない話をしてくれる。然し、そういう瀬川の友情を喜び感謝しながらも、なぜ自分は彼が来ると一種の気づまりを感ずるのであろうか。彼が余り長居するのがいけないのであろうか。平素の淋しい自分は彼の長居を却って喜ぶ筈ではないか。また彼とても、仕事の合間合間の気晴しに、別荘にでも来るような気で、自分を訪ねてくれるのではないに違いない。自分に何かと力をつけてくれたり、自分の身体を心配してくれたりする彼の友情は、美しい深いものに違いない。然るにそれを初め感謝していた自分の心は、なぜこの頃一種の反撥を感ずるようになったのか。学生時代の友情は一種の特権を与えるが、友情が特権を与えなくなる時もやがて来るのか。
其処まで考えてきて彼は淋しくなった。自分自身が淋しくなった。そして眼を閉じた。
「まだ眠いのかい。」
そういう声がしたので眼を開くと、
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