いますね。私の友人の場合でも、院長が最後の手段として試みたものだそうですから。」
「でも確かにそれで治《なお》るものとしましたら……。」
「所が確かに治るとも断言出来ないのかも知れません。多くは体質によるんでしょうから。ただ私の友人の場合は、その手当が体質によく合ったものだろうと思われます。」
「馬一匹どれ位するものでございましょうか。」
「さあ……。そしてまた、どんな馬でもいいというのではないかも知れません。」
「ではお医者に尋ねてみましょうかしら。」
「そうですね。然しそれにも及ばないでしょう。この頃だいぶお宜ろしいようではありませんか。」
「ええ、いくらか宜ろしいようにも思われますのよ、熱もずっと下っていますし、痰も殆んど出ませんから。」
「屹度よくなりますよ。河野君は頭がしっかりしていますし、少しの病気位は頭の力で治るものです。」
「ですけれど、この頃何だか苛ら苛らしてる様子が見えますので、それが私心配で……。そして追々寒くもなりますから。」

 会話はそれきり再び馬のことには戻ってゆかなかった。然し彼はしきりにそれが気になり出した。全く思いも寄らぬ馬というものが、突然其処に現
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