がやわらかくさして、海がさーっ、さーっと、優しい音をたてていました。
 白い波が巻きかえしてる砂浜が、ずーっと続いてる、その向こうの、松林から、何か黒いものが二つ、ぽつりと出てきました。それが、だんだん、非常な早さで、こちらへやって来ます。
 それを、太郎はぼんやりながめていました。二つの黒いものは、しだいに大きくなって、海岸の草原をつたって、なおやって来ました……。二頭の馬でした。馬に乗った人達でした。太郎は、夢を見てるような気持ちがしました。もう近くへ来ました。二頭とも立派な、栗毛の馬で、先のには、女が乗り、後のには男が乗っていました。ふたりとも、黒っぽい洋服を着、長い靴をはき、細い鞭《むち》を持っていました。鞭や手綱《たづな》には、何かきらきら光るものがついていました。
 馬は足をゆるめて、たったったっ……と、ゆっくり、太郎のそばを通りかかりました。すると、先の女は、そんなところに太郎が寝そべってるのに、初めて気がついて、びっくりしたようすで、ぴたりと馬を止どめました。そして、じろじろ見ていましたが、ふいに、馬から飛び下りて、太郎のそばにやって来ました。
「まあ……」
 チロの方
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