に飛ぶわけにはいかんよ。ここまでってはっきり、空中に印をつけてくれよ。すぐに飛ばしてみせよう」
相手の子供は困って、黙りこんでしまいました。
「ほんとに、チロはなんでもできるんだよ」と、太郎は言いました。
「だけど、めったにしないだけなんだ」
そして、かれはチロを抱いて、帰って行きました。
そういうことがあってから、太郎はなんだか心配になってきました。おじいさんは笑いました。
「心配することはないよ。猫というものは、なかなかえらいやつで、犬なんかに負けはしない」
それでも太郎は、安心しませんでした。家にいるときでも、始終、眠ってまで、チロのことを気にしました。いっしょに外に出かけるときには、そのそばを離《はな》れませんでした。チロは駆けまわって、草の中に隠れたり、木に登ったり、石ころにじゃれたりしました。そのあとを追っかけて、太郎も駆けだし、息を切らしました。そして、チロ……チロ……と呼ぶと、チロはすぐに駆けてきて、彼の胸に飛びつきました。
神社の前の米俵《こめだわら》
ある日、太郎とチロは遊びつかれて、海岸の草原の上に寝ころんで、うっとりしていました。日の光
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