をとりまきました。ほかのものは、叫び声をあげ、ひとかたまりになって、向こうの村へ進んでいきました。
人のいないひっそりした村のようでしたが、村人達は家の中にひそんでいたのでしょう。そこへ、襲いかかったのです。そしてもう、激しい銃声《じゅうせい》がおこっていました。
その遠い銃声を聞きながら、十人ばかりの匪賊《ひぞく》に囲まれて、キシさんと太郎とチヨ子は、馬車《ばしゃ》の中にじっと息をこらしていました。ただチロだけが、チヨ子の膝の上にきょとんとしています……。
匪賊共は、馬車をとり巻いたまま、中のようすをうかがっていました。
やがて、匪賊のひとりが声をかけました。
「お前達は、何者だ」
「ごらんのとおりのものです」と、キシさんが落ちつきはらって答えました。
二、三人の匪賊が、そっと馬車の中をのぞきこんで、みんなのようすをじろじろ眺めました。
「ほほう、手品《てじな》か奇術《きじゅつ》でも使うのか」
「そうです、手品もやれば奇術もやります」
と、キシさんは言いました。
「あちこち旅してまわっているうちに、道に迷って、困っているとこです。どこか金もうけができるところへ案内してくださ
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