そう遠くはありません。みんな急に元気になりました。
人のいない、変な村……そんなことはもうどうでもよくなりました。
夕方でしたから、食事をして、その夜はそこで、馬車《ばしゃ》の中ですごすことにしました。
その夜遅く、太郎は目をさましました。馬車の屋根がきいきい鳴るような気がしたのでした。何か変ったことがある時には、馬車の屋根がきいきい鳴ると、そう聞いていたからかもしれませんし、また実際に鳴ったのかもしれません。そして太郎が目をさましてみると、チロが起きあがって、肩をいからし、馬車のそとにじっと気をくばっていました。
太郎は耳をすましました。あちこちの家の戸口にかすかな音……それから人の足音……そんなのが聞こえるようです。馬車の屋根がきいきい鳴ってるような気もします。
太郎は、そっとキシさんを起こしました。
「人の足音がしますよ」
キシさんも耳をすましました。
「うむ何か音がしてる」
昼間は、誰もいなかった村です。それがこの夜中に……確かに音がしています。キシさんはピストルを手にとりました。そして馬車の窓を引きあけると同時に、叫びました。
「誰だ?」
外は、しーんとして
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