、やっぱり人の気配《けはい》はしませんでした。それから村の横手には、大きなにごり池がありまして、その岸に、亀《かめ》が幾匹かいて、きょとんと頭をあげて空を見ていました。
「はっはっは……」
キシさんは笑いました。
「人間のかわりに亀がいる」
亀はその声に驚いたように、どぶん、どぶんと、池の中に滑りこんでいきました。その時、太郎はふと思いだしました。一郎のおじさんが持っていた剥製《はくせい》の鳥のこと、その二つのくちばしの鳥と亀の話……それがどうやら、この池であったことかもしれません。こんな北の国に亀《かめ》がいるのは珍しいことです。
太郎はキシさんを引っぱっていって、馬車《ばしゃ》に戻りました。そして、一郎のおじさんからもらった不思議な地図をだし、眼鏡《めがね》をのぞいて調べました。すると、鳥と亀とが書いてあるところがあって、しかもそれが金銀廟《きんぎんびょう》のすぐ近くなのです。
「あ、これだ、これだ」
キシさんも眼鏡でのぞきました。
「おう、金銀廟は近いぞ」
チヨ子も、眼鏡でのぞきました。そしてにっこり笑いました。
確かに、二つのくちばしの鳥と亀との話の池です。金銀廟も
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