くりあげました。
「なんで泣いてるんだい」
「家から追い出されたの」
と、少年はやっと答えました。
「追い出された……何か悪いことをしたんだろう」
 少年は頭をふりました。
「ぼくは、メーソフさんのところに、小僧《こぞう》にあがってるんだよ。すると、この二、三日、馬車に変なことがあるから、そういってやったら……」
 馬車と……というのを聞いて、キシさんと太郎とは、顔を見合わせました。太郎はもうだいぶ中国の言葉もわかるようになっていたのです。キシさんは少年を、ベンチのあるところにつれて行って、そしてわけを聞きました。

 メーソフさんというのは、年とったロシア人で、古物商《こぶつしょう》をやっているのです。その店にあやしい馬車《ばしゃ》が一つありました。大きな馬車で、箱は鉄板でできており、車輪も鉄でできてるのです。むかし、あるえらい役人が、旅をするとき、賊をふせぐためにこしらえたものだそうです。それが、メーソフさんの倉の中にしまってあります。
 その馬車に、不思議な言い伝えがあります。何か変ったことがあるときには、その屋根がきいきい鳴るというんです。
 ところが、この二、三日、少年が倉の
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