しました。どういうことをしたか、それは後で申しましょう。
雲もなく風もない、よいお天気でした。あつらえた服や帽子も届きました。それを身につけると、キシさんもチヨ子も太郎も、見たところだけは、立派な手品使いでした。
三人は、町の広場に出かけました。前の日のことがあるので、もう、おおぜいの見物人《けんぶつにん》が集まっていました。だが、手品を使うのは、今日は一郎ではありません。
まず、キシさんとチヨ子とがすすみ出ました。キシさんは長いはしごを持ちだして、それを両手で頭の上に立てました。すると、チヨ子がキシさんの肩に昇り、それからはしごを一段ずつ、ゆっくり、ゆっくり、昇り始めました。キシさんは足をふんばり、両腕に力をこめて、うん……と力んでいます。チヨ子は、だんだんはしごを昇っていきます……。
見物人《けんぶつにん》たちはささやきあいました。
「えらい、力だ」
「力じゃない、芸だ」
「いや、力だ」
「危ないことをするなあ」
チヨ子は、はしごの一番上まで昇りました。紫の服が、日の光に照り映え、帽子の白い羽がちらちらふるえました。そしてチヨ子は、美しい声で歌いました。
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