日までに作ってもらうことにしました。
「あすから、始めましょう」と、キシさんは言いました。
「私とあなた、芸の競争をしよう。どちらが勝つか……」
「よし、やろう。負けるものか」
「私も負けない」
そしてふたりは、笑いながら握手《あくしゅ》しました。
太郎はその夜、眠られませんでした。キシさんと芸の競争をすることになってみると、さあ、負けたくはありません。けれど、手品《てじな》も[#「手品《てじな》も」は底本では「手品《てじな》の」]奇術《きじゅつ》も、これまでに一度も習ったことがなく、なんにも知りませんでした。キシさんと競争どころか、へたをすると、見物人たちから怒られるかもしれません。下野一郎さえも、見物人たちから怒られたのである。
「困ったなあ……」
太郎はため息つきました。一郎のおじさんから教わろうかしら……とも考えましたが、それでは間に合わないでしょう。
「はて、どうしたものかしら……」
太郎は、額《ひたい》にしわをよせて考えました。長い間考えました。
「あ、そうだ」
太郎は思わず叫びました。よい考えが浮かんだのです。
太郎は起きあがりました。そして、こっそりと練習を
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