また笑ってそれから仲良く腕《うで》を組んで歩いていきました。

      ふしぎな地図

 太郎と一郎は、料理屋によって、いろんなおいしいものを買い、それを折り箱に詰めてもらいました。そして、一郎のおじさんの、手品使いの老人のところへ行きました。だんだんからだがきかなくなって、もう寝てばかりいるのだそうです。だから一郎はひとりで、下手な手品《てじな》を使って、働かなければならなかったのです。
 町はずれの、汚い小さな宿屋でした。
「そっとはいるんだよ。おじさんはよく眠ってることが多いから……」
と、一郎は言いました。
 部屋にはいると、片隅に、薄い布団《ふとん》にくるまって、老人がすやすや眠っていました。一郎と太郎は、そっと窓のほうに行って、そこに座りました。
 小さな戸棚《とだな》が一つあるきりの、がらんとした、さびしい部屋でした。戸棚の上に、剥製《はくせい》の白い鳥がおいてありました。
 窓から外を見ると広い荒地《あれち》で、その先の方に、赤くにごった池があって、柳の木が二、三本立っていました。そのにごり池と、ひょろひょろした木とを眺めていると、太郎はもの悲しくなってきました。

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