「さびしい所だね」
と、太郎は言いました。
「でも、馴《な》れるとそんなでもないのよ」
と、一郎は言いました。
「あの池ね、どうしてあんなに赤くにごってるんだい」
「まわりが赤土だからだよ」
「魚も何もいないだろうね」
「いないよ」
「つまらないね」
「それでも、水鳥《みずとり》が時々くるんだよ。ああ、おもしろいものを見せようか」
 一郎は、そっと立っていって、戸棚《とだな》の上の剥製《はくせい》の鳥を持ってきました。それは、鷺《さぎ》に似た白い鳥でしたが、不思議に、長いくちばしが頭の横っちょについていました。
「これね、おじさんが大事にしてる鳥なんだよ。そして何度も、おかしな話を聞かしてくれるんだよ」
 一郎はその話をしてくれました。

 あるところに、くちばしを二つ持ってる鳥がいたんだって。長いくちばしと、短いくちばしと、二つあるんだよ。その鳥が、池のふちに立っていた。おおかたあすこに見えるような、にごった池なんだろう。食べるものがない。鳥はお腹を空かして、池の面《おもて》をじっと見ていた。けれど、一匹の小さな魚も泳いでいない。それで、長いくちばしは短いくちばしに言ったんだよ。

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