どい声がひびきました。
 太郎が、そこに飛び出して、子供ながらも、少年を後にかばって両手を広げて、つっ立ったのです。
 太郎はなお大きな声で言いました。
「待ってください、この人はぼくがよく知っています。手品《てじな》はとてもうまいんです。世界で一番上手です。ただ、きょうはからだのぐあいがよくないんです。きょうは病気なんです。それで、うまくいかなかったんです」
 群衆は少し静かになりました。太郎はなお言いました。
「あすはすばらしい芸を見せてあげます。ここで、この場所で、すばらしい芸を見せてあげます。うそだと思ったら、この手品の道具をあずかっておいてください。あすやって来て芸を見せます。逃げも隠れもしません。うそだと思う人は、この手品の道具をあずかってください」
 こんな手品の道具なんか、誰もあずかろうという者はありませんでした。太郎は得意気に微笑《ほほえ》んで、少年をうながして、道具をかたずけさして立ち去ろうとしました。その時、群衆の中から、大きな男がのっそり出てきました。
「私、その道具あずかる」
 太郎はびっくりして、ふりかえって見ますと、それは、労働者のような汚いみなりをしては
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