を転がしていくのです。それを少しやっているうちに、彼の顔は赤くなり、額《ひたい》に汗が出てきました。危ない! と太郎が思ったとたん、少年は毬から転がり落ち、毬は見物人のひざにはねかえりました。人々はどっと笑いました。少年は起きあがると、夢中で毬をひろいとり、いきおいこんで、再びやり始めました。また、しくじりました。毬は人々の膝や胸にはねかえりました。
「ばか!」
と、叫ぶ者がありました。
少年はいらだって、やり続けました。
「やめろ、へたくそ! やめちまえ」
と、叫ぶ者がありました。
少年はなおさらいらだって、夢中にやり続けようとしました。
「やめろ。ばか、へたくそ!」
人々はどなり出しました。少年はなおいきりたちました。喧嘩《けんか》ごしで、毬の上に乗ろうとしました。群衆の方もおこりました。どなりつけ、おどかし、石を投げる者までありました。
「やめちまえ。もらった金を返せ」
「こんな奴《やつ》、追いはらっちまえ」
群衆は騒ぎだしました。少年は毬《まり》をかかえ、歯を喰いしばって、ぶるぶる震えていました。石がいくつも飛んできました。
「待ってください、待ってください」
と、する
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