てみましたが、彼はもう出てきませんでした。太郎は船室に戻っていきました。名前もわからず、ところもわかりませんでしたが、その少年のことを、なつかしく考えました。
 あくる日、船は大連につきました。太郎は手品使いの少年を探しましたが、見つかりませんでした。

 松本さんの店は、大連《だいれん》の賑《にぎ》やかな所にありましたが、別に、住居《すまい》が山手の方の静かな所にありました。一同は、そちらに落ち着きました。
 ところが、大連でも、蒙古《もうこ》の玄王《げんおう》のことは、よくわかりませんでした。興安嶺《こうあんれい》の奥の山の中で、汽車も自動車も通わず、道もはっきりしないし、いく十日かかって行けるかわからないところです。松本さんとキシさんとは、いろんな方面について、はっきりした事情をしらべにかかりました。
 チヨ子は、家の中でチロと遊んでばかりいて、少しも外に出ませんでした。それで、太郎はひとりでよく出かけました。
 大連には、いろいろな国の人が多く、いろいろ立派な家が並んでるので、太郎には珍しくおもしろく思われました。
 ある日も太郎は、ひとりでぶらぶら歩いていました。すると、港近
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