てみましたが、彼はもう出てきませんでした。太郎は船室に戻っていきました。名前もわからず、ところもわかりませんでしたが、その少年のことを、なつかしく考えました。
あくる日、船は大連につきました。太郎は手品使いの少年を探しましたが、見つかりませんでした。
松本さんの店は、大連《だいれん》の賑《にぎ》やかな所にありましたが、別に、住居《すまい》が山手の方の静かな所にありました。一同は、そちらに落ち着きました。
ところが、大連でも、蒙古《もうこ》の玄王《げんおう》のことは、よくわかりませんでした。興安嶺《こうあんれい》の奥の山の中で、汽車も自動車も通わず、道もはっきりしないし、いく十日かかって行けるかわからないところです。松本さんとキシさんとは、いろんな方面について、はっきりした事情をしらべにかかりました。
チヨ子は、家の中でチロと遊んでばかりいて、少しも外に出ませんでした。それで、太郎はひとりでよく出かけました。
大連には、いろいろな国の人が多く、いろいろ立派な家が並んでるので、太郎には珍しくおもしろく思われました。
ある日も太郎は、ひとりでぶらぶら歩いていました。すると、港近
前へ
次へ
全74ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング