てきました。
 沖《おき》に出ると、船は少し揺れてきましたが、太郎は元気でした。松本さんが船長と懇意《こんい》なので、船の中をあちこち見せてもらいました。
 そのあくる日の夕方、太郎はもうたいくつして、デッキに上がって暮れかけた海原をながめていました。冷たい風が吹いて、デッキには誰もいませんでした。ただ……。
 太郎は気がついて、目を見張りました。向こうに、みすぼらしいみなりの十五―六歳の少年が、ぴかぴか光る輪をいくつも持って、それを投げたり受けとめたりして、ひとりで遊んでいました。いや、遊んでるのではありません。一生懸命になって、なにか練習してるのです。輪を一つ受けそこなって、とり落とすと、自分で額《ひたい》をたたいて、歯ぎしりをしています……。
 太郎はその方にやって行きました。
「何をしているの?」と、太郎はたずねました。
 少年は悲しそうな目付きで答えました。
「練習してるんだよ」
「なんの練習だい」
「輪投げだよ」
「そして、何になるの」
「ぼくの商売だよ。手品《てじな》をつかうのさ」
「ほう、きみは手品使いかい」
「うん。だけど、まだうまくいかないんだ」
 少年はいくつもの
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