赤土で猫を作って、占《うらな》いした。おう、それを、お嬢さん悪い、踏みつぶしてしまった。もう望みない。だめです」
 キシさんがうなだれると、チヨ子はまた泣きだしました。
 太郎は、どう言ってなぐさめてよいかわかりませんでした。そんなことは、迷信《めいしん》だと言っても、聞きいれられそうにありません。そして、そんな迷信にとらわれてるキシさんが、こっけいでもあるし、泣いてるチヨ子が、かわいそうでもあるし、また二人の身の上が気の毒でもあるし、なんだか胸の中がむずむずしてきました。
「ばかだなあ、きみたちは、泣いてばかりいて……」
と、太郎は言いました。
「チロは雪の中から出てきたんだよ。金銀廟《きんぎんびょう》から、とんで来たのかもしれない。そうだよ、きっと……だから、チロを連れて、蒙古に行こうよ。ぼくも行ってやろう。みんなで行こうよ。匪賊《ひぞく》なんか、退治《たいじ》しちまやいいんだろう。だいじょうぶだ。みんなで行こうよ」
 キシさんと、チヨ子とは、チロを抱いてつっ立っている太郎を、びっくりして見あげました。
「赤土の猫なんか、だめだよ。チロは生きてる猫で、金目銀目だ。これを連れて行こう
前へ 次へ
全74ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング