んでいきました。
太郎はふんがいしたように言いました。
「メーソフさん、あなたは、世間《せけん》から誤解されていますよ。みんなあなたのことを、ほらふきのインチキだと言ってますよ」
「ほう、どうしてですか」
と、メーソフはたずねました。
「昨日見せてもらった鉄の馬車《ばしゃ》ですね、あのことを、人に話したところが、あれはもう古くて役に立たないと、みんな言ってますよ」
メーソフは目玉をぐるっと動かしました。
「あの馬車はすっかりさびついていて、動きはしないと、みんな言ってますよ」
メーソフはまた目玉をぐるっと動かしました。
「あの馬車はただの飾りもので、引き出せば、ばらばらにこわれてしまうと、みんな言ってますよ」
メーソフはまた目玉をぐるっと動かしました。
「あんな馬車を、さも大事そうに飾りたてとくなんて、メーソフはとんだインチキやろうだと、みんな言っていますよ」
メーソフは、また目玉をぐるっと動かしました。
「ぼくがいくら弁解しても、誰もしょうちするものがありません。ぼくはくやしくてたまらないんです。だから、今日|一日《いちんち》、あの馬車《ばしゃ》を貸してください。あれに馬をつけてあちこち駆けまわって、どうだい、メーソフさんの馬車はこのとおり立派じゃないかと、みんなに見せつけてやりたいんです。今日一日、貸してください」
太郎の話を聞いて、メーソフはふんがいしていました。
「よろしい、みんながそんなことを言ってるなら、うんと見せつけてやってください。メーソフの馬車は飾りものじゃない」
そこで、倉から馬車を引っぱり出して、ふくやら、磨くやら、油をさすやら大変働きました。
馬車はすっかりきれいになりました。
太郎はホテルに戻って、キシさんにわけを話し、馬車を占領《せんりょう》してしまう手はずを決めました。前から買っておいた二頭の栗毛の馬を引いてきて、馬車につけました。一包みのお金をメーソフにあずけて、安心させました。
馬に鞭《むち》をあてると、馬車は勢いよく走りだしました。それを、メーソフは笑顔で見送りました。
馬車は、夕方になっても、夜になっても、戻ってきませんでした。メーソフは、心配し始めました。
あくる朝早く、メーソフは起きあがりました。そしておもてをあけてみると、馬車がそこにありましたので、駆けよって行くとおどろきました。
馬車の中には、変な人が三人乗っていました。白と黒との市松《いちまつ》の服をつけ、尖《とが》った三角の帽子をかぶっている大男、それはキシさんです。五色の縞《しま》の服をつけ、ふさのついた大きな帽子をかぶってる少年、それは太郎です。紫の服に白い羽の帽子をかぶっている少女、それはチヨ子です。チヨ子のひざには、まっ白な金の目銀の目の猫が抱かれています。そして三人は、パンや、焼肉や、果物などをまん中にならべて、食事をしているのです。
そればかりではありません。馬車《ばしゃ》のかたすみには、かばんや毛布、大きな毬《まり》や金輪《かなわ》や、ナイフや棒など、いろんなものが積み重なっています。それに、馬車には馬も二頭ついていて、いつ駆けだすかわからないありさまです。
メーソフはあきれかえって、目をみはりました。
メーソフの姿を見て、太郎は笑いながら飛び出してきました。それから、両腕を組み、首をかしげて、いばりくさったようすで言いました。
「メーソフさん、この馬車はなかなかいいですね。すっかり気に入りました。どうか売ってください。ぼくたちは、このとおり、じつは奇術師《きじゅつし》なんです。これから、満州《まんしゅう》中を、いや世界中を、旅して歩かなければなりません。それには、ぜひとも馬車がいるんです。あなたが売ってくださるまでは、いく日でも、この中に泊りこむ覚悟をしてるんです。食べものもたくさんあるし、毛布もあるし、ピストルだって持っていますよ。さあどうです、売ってくれますか、いやですか。売ってくれなければいつまでも、死ぬまで、この馬車の中にがんばってみせますよ」
メーソフが怒りだすかと思って、太郎は内心びくびくしていましたが、メーソフはしばらく太郎のようすをながめて、それから、髭《ひげ》だらけの顔にしわをよせて大きく笑いました。
「ほう、あんたがたは、奇術師《きじゅつし》だったのか。そして、この馬車《ばしゃ》が、そんなに気に入ったんですか。よろしい、わたしの負けだ、売ってあげましょう。きのう、あずかった金がいくらだかわからないが、あれだけでよろしい。そのかわりに、この馬車をあげましょう。この馬車なら、世界中まわったって大丈夫《だいじょうぶ》だ。安心していらっしゃい」
「え、本当、本当ですか」
メーソフは何度もうなずきました。太郎はその胸にすがりつきました。キシさんも馬車から出てきて、
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