メーソフとしっかり握手《あくしゅ》しました。
匪賊《ひぞく》のなかへ
いよいよ金銀廟《きんぎんびょう》に向かっての旅です。
始めのうちは、のんきでした。奇術師《きじゅつし》といっても、それはひと目をごまかすためのもので、時々奇術のまねごとみたいなことをやるだけで、旅を急ぎました。キシさんが二頭の馬を御《ぎょ》し、太郎とチヨ子とは、馬車の箱の中で、白猫のチロと遊びながら、奇術のけいこでもするだけでした。馬車の中には、用心のために、食べものもたくさん積んでありますし、武器もありました。太郎が持ってる不思議な地図をたよりに、町から町へ、村から村へと、進んでいきました。ところが、十日たち、二十日たつうちに、旅はしだいに困難になってきました。
村がだんだんなくなってきます。見渡す限りひろびろとした荒野《こうや》の中や、いつ通りぬけられるかわからない森の中などに、いくにちも迷いこんだり、けわしい山のすそを遠くまわったり、雨が降って旅ができなかったり、いろんなことがあるうえに、夜はいつも馬車《ばしゃ》の中に寝なければなりませんでした。けれどもみんな、チロも馬も元気でした。キシさんは歌をうたったり、おかしな話をしたりして、太郎とチヨ子を笑わせました。
それから、カラマツの森の中に、また迷いこんで、四―五日も出られなかった時は、さすがのキシさんも弱ったようでした。一番困るのは、水がなかなか見つからないことでした。そしてある夕方、思いがけなくその森から出ると、すぐそこに、ひとかたまりの家がありまして、その先には、青々とした野原が広がっていました。
「村だ、村だ」と、キシさんは叫びました。
馬を駆けさせて、村にはいりました。
村といっても、十二―三軒の家だけで、その家はみんな、低い土壁《つちかべ》に瓦屋根《かわらやね》をのせて、入口が一つついているきりでした。そして不思議なことには、その入口はみな、がんじょうな戸が締めきってありました。
キシさんは馬車から下りて、家の戸を一つ一つ叩いてまわりましたが、誰も開けてくれる者はなく、返事もなく、家の中には人のけはいもありませんでした。
「おかしい。誰もいない」
太郎も馬車から下りて、家の戸を叩いてまわりました。
「どこにも、誰もいませんね。どうしたんでしょう」
キシさんと太郎とは、なお村の中を見てまわりましたが、やっぱり人の気配《けはい》はしませんでした。それから村の横手には、大きなにごり池がありまして、その岸に、亀《かめ》が幾匹かいて、きょとんと頭をあげて空を見ていました。
「はっはっは……」
キシさんは笑いました。
「人間のかわりに亀がいる」
亀はその声に驚いたように、どぶん、どぶんと、池の中に滑りこんでいきました。その時、太郎はふと思いだしました。一郎のおじさんが持っていた剥製《はくせい》の鳥のこと、その二つのくちばしの鳥と亀の話……それがどうやら、この池であったことかもしれません。こんな北の国に亀《かめ》がいるのは珍しいことです。
太郎はキシさんを引っぱっていって、馬車《ばしゃ》に戻りました。そして、一郎のおじさんからもらった不思議な地図をだし、眼鏡《めがね》をのぞいて調べました。すると、鳥と亀とが書いてあるところがあって、しかもそれが金銀廟《きんぎんびょう》のすぐ近くなのです。
「あ、これだ、これだ」
キシさんも眼鏡でのぞきました。
「おう、金銀廟は近いぞ」
チヨ子も、眼鏡でのぞきました。そしてにっこり笑いました。
確かに、二つのくちばしの鳥と亀との話の池です。金銀廟もそう遠くはありません。みんな急に元気になりました。
人のいない、変な村……そんなことはもうどうでもよくなりました。
夕方でしたから、食事をして、その夜はそこで、馬車《ばしゃ》の中ですごすことにしました。
その夜遅く、太郎は目をさましました。馬車の屋根がきいきい鳴るような気がしたのでした。何か変ったことがある時には、馬車の屋根がきいきい鳴ると、そう聞いていたからかもしれませんし、また実際に鳴ったのかもしれません。そして太郎が目をさましてみると、チロが起きあがって、肩をいからし、馬車のそとにじっと気をくばっていました。
太郎は耳をすましました。あちこちの家の戸口にかすかな音……それから人の足音……そんなのが聞こえるようです。馬車の屋根がきいきい鳴ってるような気もします。
太郎は、そっとキシさんを起こしました。
「人の足音がしますよ」
キシさんも耳をすましました。
「うむ何か音がしてる」
昼間は、誰もいなかった村です。それがこの夜中に……確かに音がしています。キシさんはピストルを手にとりました。そして馬車の窓を引きあけると同時に、叫びました。
「誰だ?」
外は、しーんとして
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