を見|廻《まわ》しました。頭《あたま》の上には、澄《す》みきった大空と太陽《たいよう》とがあるばかりでした。立っているところは、つき立った岩の上で、眼《め》もくらむほど下の方に、白雲《しろくも》と黒雲《くろくも》とが湧《わ》き立って、なにも見えませんでした。冷《つめ》たい風が吹《ふ》きつけてきて、今にも大嵐《おおあらし》になりそうでした。王子は腕《うで》を組《く》んで、岩《いわ》の上に座《すわ》りました。いつまでもじっと我慢《がまん》していました。しかし、そのうちに、だんだん恐《おそろ》しくなってきました。風が激《はげ》しくなり、足下《あしもと》の雲《くも》がむくむくと湧《わ》き立って、遙《はる》か下の方に雷《かみなり》の音まで響《ひび》きました。王子はそっと下の方を覗《のぞ》いてみました。
 屏風《びょうぶ》のようにつき立った断崖《きりぎし》で、匐《は》いおりて行くなどということはとうていできませんでした。
 王子は立ちあがりました。そして考えました。
「あの老人《ろうじん》に助《たす》けを求《もと》めたくはない。なあに、命《いのち》がけでおりてみせる。僕《ぼく》が死《し》ぬか、それ
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