めん》にひろがっていて、遠《とお》くの下の方で雷《かみなり》が鳴《な》るような音がしていました。雲《くも》よりも高い山だったのでした。それでも、向《むこ》うにはさらに高い山がつき立っていました。
「あの山へ行こう」と王子はいいました。
 王子はただ高いところへあがって行くことよりほかには、なにも考えてはいませんでした。この老人《ろうじん》に負《ま》けてなるものか、どんな高いところへでもあがってやる、という気でいっぱいになっていました。そして二、三度高い方の山へと、老人《ろうじん》につれられてあがってゆきました。
 ある山の上にくると、老人《ろうじん》はそこにとんと杖《つえ》をついていいました。
「お前の強情《ごうじょう》なのにはわしも呆《あき》れた。これが世界で一番高い山だ。もう世界中でこれより高いところはない。ここまでくればお前も本望《ほんもう》だろう。これからまた下へおりて行くがいい。はじめからの約束《やくそく》だから、わしはもう知らない。これでお別《わか》れだ」
 王子が眼《め》をあげて見ると、もう老人《ろうじん》の姿《すがた》は消《き》えてしまっていました。王子はぼんやりあたり
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