高いのかと思っていましたのに、きてみると、さらに高い山が向《むこ》うに聳《そび》えています。王子はいいました。
「あの山の上へ行こう」
老人《ろうじん》と王子とはまたその山の頂《いただき》へ行きました。すると、さらに高い山がまた向《むこ》うにでてきました。もう下の方を見|廻《まわ》しても、積《つ》み重《かさな》った山や遠《とお》い野が少し見えるきりで、初めのような美《うつく》しい景色《けしき》は眼《め》にはいりませんでした。薄黒《うすぐろ》い雲《くも》がすぐ前を飛《と》んで行きました。
「あの山の上へ行こう」と王子は向《むこ》うの高い山を指《さ》していいました。
「望《のぞ》むならつれていってもいい」と老人《ろうじん》は答《こた》えました。
「しかし帰《かえ》りはお前一人だぞ。城《しろ》の庭《にわ》へおろしてくれといっても、わしは知らないが、それでもいいのか」
王子は少し心|細《ぼそ》くなってきましたが、それでも構《かま》わないと答《こた》えました。そして二人は向《むこ》うの山の上へ行きました。もう、なんにも見えませんでした。薄黒《うすぐろ》い雲《くも》が足下《あしもと》に一|面《
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