を指《さ》して老人《ろうじん》にいいました。
「こんどはあの塔《とう》の上に行こう」
 老人《ろうじん》が杖《つえ》を振《ふ》ると、二人は一番高い塔《とう》の屋根《やね》にあがりました。王子はまだこんな高いところへあがったことがありませんでした。足下《あしもと》には、広い城《しろ》が玩具《おもちゃ》のように小さくなって、一足《ひとあし》に跨《また》げそうでした。庭《にわ》や森《もり》や城壁《じょうへき》や堀《ほり》などが、一目《ひとめ》に見て取れて、練兵場《れんぺいじょう》の兵士《へいし》たちが、蟻《あり》の行列《ぎょうれつ》くらいにしか思われませんでした。城《しろ》のまわりには、小石を並《なら》べたような町|並《なみ》が、遠《とお》くまで続《つづ》いていました。その末《すえ》は広々とした野《の》になって、一|面《めん》に、ぼうと霞《かす》んでいました。王子はただうっとりと眺《なが》めていました。
「まだ高いところへあがりたいか」と老人《ろうじん》はいいました。
 王子は我《われ》に返《かえ》って老人《ろうじん》の顔《かお》を見あげました。それから、向《むこ》うの高い山の頂《いただき》
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