「うむ、どんな高いところへでも連《つ》れていってやる。そのかわり、また下へおりようといっても、それはわしは知らない。それでよかったらわしと一|緒《しょ》にくるがいい」
「行こう」
 そういって王子は立ちあがりました。
「しかし、下へおりたくなったからといっても、もうわしは助《たす》けてやらないよ」と老人《ろうじん》はいいました。
「高いところへあがれさえすれば、下へなんかはおりなくてもよい」と王子は答《こた》えました。
「それでは行こう」
 老人《ろうじん》は王子の手を取って、杖《つえ》を一振《ひとふ》り振《ふ》ったかと思うと、二人はもう高い壁《かべ》の上にあがっていました。王子はびっくりしました。この老人《ろうじん》は魔法使《まほうつか》いに違《ちが》いない、と思いました。しかし恐《こわ》がることがあるものか、と思いなおしました。見ると、自分が今まで居《い》た庭《にわ》や城外《じょうがい》の町などはずっと、下の方に見おろされました。往《い》き来《き》してる人間が、豆粒《まめつぶ》のように小さく見えました。王子は嬉《うれ》しくてたまりませんでした。そして、城《しろ》の高い塔《とう》
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