く、ただ平《たい》らな地面《じめん》が高い壁《かべ》に取り巻《ま》かれてるきりでした。王子は朝から夕方まで、この庭《にわ》の中に閉《と》じこめられまして、どこを見ても、自分があがれるような高いものは、なに一つありませんでした。そして、とうてい登《のぼ》れないほどの高い壁《かべ》が四方にあるだけ、なおさらつまらなくなりました。いろんな遊《あそ》びごとを皆《みな》から勧《すす》められても、王子は見|向《む》きもしませんでした。芝生《しばふ》の上に寝《ね》ころんで、ぼんやり日を過《すご》しました。
 ある日も、王子は芝生《しばふ》の上に寝《ね》ころんで、向《むこ》うの高い壁《かべ》をぼんやり眺《なが》めていました。壁《かべ》の向《むこ》うには、青々とした山の頂《いただき》が覗《のぞ》いていました。その山の上には白い雲《くも》が浮《うか》んでいて、さらにその上|遠《とお》くに、大空が円《まる》くかぶさっていました。
「あの壁《かべ》の上にあがったら……、あの山にあがったら……、あの雲《くも》にあがったら……、そしてあの空の天井《てんじょう》の上に……」
 王子は一人で空想《くうそう》にふけりな
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