」
「うむ、どんな高いところへでも連《つ》れていってやる。そのかわり、また下へおりようといっても、それはわしは知らない。それでよかったらわしと一|緒《しょ》にくるがいい」
「行こう」
そういって王子は立ちあがりました。
「しかし、下へおりたくなったからといっても、もうわしは助《たす》けてやらないよ」と老人《ろうじん》はいいました。
「高いところへあがれさえすれば、下へなんかはおりなくてもよい」と王子は答《こた》えました。
「それでは行こう」
老人《ろうじん》は王子の手を取って、杖《つえ》を一振《ひとふ》り振《ふ》ったかと思うと、二人はもう高い壁《かべ》の上にあがっていました。王子はびっくりしました。この老人《ろうじん》は魔法使《まほうつか》いに違《ちが》いない、と思いました。しかし恐《こわ》がることがあるものか、と思いなおしました。見ると、自分が今まで居《い》た庭《にわ》や城外《じょうがい》の町などはずっと、下の方に見おろされました。往《い》き来《き》してる人間が、豆粒《まめつぶ》のように小さく見えました。王子は嬉《うれ》しくてたまりませんでした。そして、城《しろ》の高い塔《とう》を指《さ》して老人《ろうじん》にいいました。
「こんどはあの塔《とう》の上に行こう」
老人《ろうじん》が杖《つえ》を振《ふ》ると、二人は一番高い塔《とう》の屋根《やね》にあがりました。王子はまだこんな高いところへあがったことがありませんでした。足下《あしもと》には、広い城《しろ》が玩具《おもちゃ》のように小さくなって、一足《ひとあし》に跨《また》げそうでした。庭《にわ》や森《もり》や城壁《じょうへき》や堀《ほり》などが、一目《ひとめ》に見て取れて、練兵場《れんぺいじょう》の兵士《へいし》たちが、蟻《あり》の行列《ぎょうれつ》くらいにしか思われませんでした。城《しろ》のまわりには、小石を並《なら》べたような町|並《なみ》が、遠《とお》くまで続《つづ》いていました。その末《すえ》は広々とした野《の》になって、一|面《めん》に、ぼうと霞《かす》んでいました。王子はただうっとりと眺《なが》めていました。
「まだ高いところへあがりたいか」と老人《ろうじん》はいいました。
王子は我《われ》に返《かえ》って老人《ろうじん》の顔《かお》を見あげました。それから、向《むこ》うの高い山の頂《いただき》を指《さ》しました。
「あの山の上へ行こう」
老人《ろうじん》が杖《つえ》を振《ふ》ると、二人は宙《ちゅう》を飛《と》んで、すぐにその高い山の上にきました。王子はそこの岩《いわ》の上に立って眺《なが》めました。城《しろ》や町はもうひとつの点《てん》ぐらいにしか見えませんでした。土饅頭《どまんじゅう》ぐらいな、なだらかな丘《おか》が起伏《きふく》して、その先《さき》は広い平《たい》らな野となり、緑《みどり》の毛氈《もうせん》をひろげたような中に、森や林が黒《くろ》い点《てん》を落《おと》していて、日の光りに輝《かがや》いてる一筋《ひとすじ》の大河が、帯《おび》のようにうねっていました。
「もうこれきりにしようか」と老人《ろうじん》がいいました。
王子はまた夢《ゆめ》からさめたような気持《きもち》で、老人《ろうじん》の顔《かお》を眺《なが》めました。それから、うしろの方の一番高い山の頂《いただき》を指《さ》しました。
「あの山の上へ行こう」
老人《ろうじん》が杖《つえ》を振《ふ》ると、二人はまた宙《ちゅう》を飛《と》んでその山の上へ行きました。
王子はびっくりしました。その山が一番高いのかと思っていましたのに、きてみると、さらに高い山が向《むこ》うに聳《そび》えています。王子はいいました。
「あの山の上へ行こう」
老人《ろうじん》と王子とはまたその山の頂《いただき》へ行きました。すると、さらに高い山がまた向《むこ》うにでてきました。もう下の方を見|廻《まわ》しても、積《つ》み重《かさな》った山や遠《とお》い野が少し見えるきりで、初めのような美《うつく》しい景色《けしき》は眼《め》にはいりませんでした。薄黒《うすぐろ》い雲《くも》がすぐ前を飛《と》んで行きました。
「あの山の上へ行こう」と王子は向《むこ》うの高い山を指《さ》していいました。
「望《のぞ》むならつれていってもいい」と老人《ろうじん》は答《こた》えました。
「しかし帰《かえ》りはお前一人だぞ。城《しろ》の庭《にわ》へおろしてくれといっても、わしは知らないが、それでもいいのか」
王子は少し心|細《ぼそ》くなってきましたが、それでも構《かま》わないと答《こた》えました。そして二人は向《むこ》うの山の上へ行きました。もう、なんにも見えませんでした。薄黒《うすぐろ》い雲《くも》が足下《あしもと》に一|面《
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