も、似てると思っていました。」
わたしは黙っていた。わたしはお兄さまにはあまり似ていないのである。それとも、他人から見れば、やはり似てるところがあるのかしら。
「夏子さんはどうしていらっしゃいますか。」
わたしはまた彼の顔を見返した。
「みんなの名前を、御存じなんですの。」
「いや、当推量ですよ。春樹さん、秋子さん、だからその間は、夏子さん……。」
彼はそう言って笑ったが、どうも、へんにあやふやなのだ。真面目なのか冗談なのか、見当がつかなかった。こちらからあまり話をしたくなかった。でも、警戒したわけではない。彼の言行のうちには、なにか普通の作法に外れたようなところがあり、それが傲慢から来るのか天真爛漫から来るのかは分らないが、悪心はないように見えるのだった。それで、わたしはいい加減な受け答えをしてるうちに、あとで気付いたのだが、家の事情をだいたい話してしまったことになった。お兄さまは、日華事変中に中国で戦死されたこと、お姉さまが肋膜を病まれたあと、肺に浸潤が残っていて、避暑と保養とをかねて、お母さまとわたしと三人で、この高原の別荘に来ていることなど。
ぽつりぽつりと短い言葉を交
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