って、小野田さんの方を見つめていらっしゃるのだが、その眼が、錐のように鋭く、突き刺すようで、しかも視線は遠くに届かないような、妙な印象をわたしに与えた。
 小野田さんは庭の方を眺めながら、ウイスキーを飲んでいた。酒好きだとみえる。もう眼の縁を赤らめ、その眼尻で笑ったり、眉をぴくりとしかめたりした。
 この高原に霧が多い話から、各地の霧の話も出た。戦地で、濃霧の中を進軍していると、ぱったり敵兵と顔をつき合せ、あまり近すぎるし突然のことなので、斬り合いをすることも忘れて、双方ともじりじり後に退った、そういうこともあったとか。そのような時、咄嗟に敵を刺したり捕えたりすることが出来たら、もう一人前の兵隊だそうである。
 いったい、小野田さんの話は、真偽不明で、ひとをはぐらかすようなところがあって、なんだか煙幕でも張ってある感じだ。
 霧のことについで、雷の話も出た。剣つきの銃をにない、三十人ばかりひとかたまりになって行進していると、その銃剣の穂に大きな雷が落ちて、全員圧死してしまったこともあるとか。また時には、その中の一人だけに雷が落ちて、側の者はみな助かったこともあるとか。沼の真中に落ちる雷
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