われてからわたしも気づいた。用心のため、橋の欄干から少し離して、地面に立てて置いといた牛乳の一升瓶が、馬に蹴られたのであろう、二つに割れて、地面に白く牛乳が流れている。そのひとはすぐ、藁編みの瓶容れを拾いあげ、じっと眺めて、残ってる瓶の下部をつまみ取り、乱暴に川の中に投り込み、地面の瓶の破片も、足先で乱暴に川に蹴込んで、それから瓶容れを私の手に返した。
「粗相しちゃった。すみません。」
「いいえ、宜しいんですの。」
そのひとも、馬も、わたしの方を見ていた。わたしも相手を見た。
男の年齢はわたしには見当がつきかねるけれど、三十前後だろうか、鳥打帽に薄羅紗のジャンパー、乗馬ズボンに赤の長靴、全体が茶色がかった色調で、きりっとした身なりである。馬の年齢もわたしには見当がつきかねるけれど、まだ若いらしく、でもサラ系ではなく、ありふれたつまらぬもので、ただ、鞍だけは立派である。
「牛乳は、どこで買ったんですか。」
隠すほどのことでもないから、わたしはありのまま答えた。
「ほう、あすこの茶店にたのんで……。」
なぜか、まじまじとわたしの顔を見るので、わたしは歩き出そうとした。
「ちょっとお
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